ジャケ買い(jacket buying)

ジャケ買いとは
曲名やアーティストで聴きたい音を指定して選ぶ買い方がある。その逆に、中身の音を知らないままジャケットに刷られた絵やデザイン、文字の体裁だけを手がかりに盤を選ぶ。これがジャケ買いである。
12 インチ LP の大判ジャケットは正方形の印刷面を持ち、見開き(ゲートフォールド)なら開いた内側まで絵が広がる。7 インチでは、その盤のためだけに刷られたピクチャースリーブが一枚と一対になる。ジャケ買いでは、この印刷面の色、構図、文字の体裁が、音を聴く前の唯一の手がかりになる。
ジャケットが音楽の顔になるまで
レコードの外装は、最初から絵だったわけではない。初期の盤は無地の包みで売られ、外装は中身を保護する側にあった。これが変わるのは、外装のアートワークに広告としての価値が認識されるにつれてである。LP の普及とともに正方形の大判ジャケットが広まると、印刷面はそれ自体が見られる対象になり、絵が音楽の顔として機能し始めた、と読める。
ある研究は外装の機能を、盤の保護、音楽の広告、音への視覚的な補助、それ自体が収集の対象となる商品、と列挙する。ジャケ買いが頼るのは、広告と視覚的補助の側面である。ジャケットは音楽への入口であって、音を言い切らず雰囲気を示唆する、と見てよい。まだ鳴っていない音を、ジャケットが気配として先に差し出す。
店頭でジャケットに惹かれる
中古店の棚で、未知の一枚に目が留まる。表紙の色づかいと構図に引き込まれて抜き出し、裏のトラックリストを眺めても、鳴る音までは見えてこない。盤をジャケットから出して盤面の状態と品番を確かめても、それは盤質の話で、曲が好みに合うかは別の問いとして残る。手元にあるのは、視覚から受け取った印象だけである。
どう付き合うか
外装からは、年代やレーベルの傾向まで読める。年代は書体や装丁の質感に出るし、ラベルの色やロゴの体裁、背表紙やラベルに刷られた品番の接頭辞からは、どのレーベルのいつの系列かが店頭でも追える。ただし、そこから分かるのはどの版かまでで、鳴りそのものではない。音を決めるのはマスタリングやプレス工程と盤の状態であって、表紙の出来ではない。気に入った外装の盤でも、ノイズや反りは別に確かめる。
外装の状態をどこまで数えるかは、その一枚を何のために選ぶかで変わる。聴くために選ぶなら盤の鳴りを優先し、絵まで含めて棚に並べるなら外装の状態も数に入れる。
ジャケ買いは、聴きたい音を名前で指定する買い方の逆をいく。ジャケットを頼りに、自分では検索しなかった音を引きにいく買い方である。外装から入ることで、年代やレーベルの傾向まで手がかりが増え、知らなかった曲に出会える。